個性を尊重するオランダ教育は学力に結びついているのか調査しました!
はじめに
出典:ユニセフ報告書「レポートカード16」先進国の子どもの幸福度ランキング 2020年/unicef
国際連合の補助機関であるユニセフが2020年に発表した「先進国の子どもの幸福度ランキング」において、オランダが1位を獲得し、注目を浴びています。
子どもの幸福度が高いということは、つまりオランダの教育制度が子どもの幸福度に何かしらの影響を与えていることを意味しており、オランダの教育にも熱視線が注がれるわけです。一方、日本の子どもの幸福度は先進国38カ国中20位(精神的幸福度においては37位)と低く、オランダの教育に学ぶところも多いでしょう。
この記事では、オランダ教育が世界1と呼ばれる理由や、オランダの教育制度・事情、学力について掘り下げていきます。
オランダ教育は世界1と言われる理由
オランダは、世界の子供の支援や「子供の権利条約」普及に努めるユニセフが数年ごとに先進国の子供を対象としてまとめる「子供の幸福度リポート(CHILD WELL-BEING IN RICH COUNTRIES: A COMPARATIVE OVERVIEW」(最新版2013年)の調査で、「世界一の教育」と認定
引用:「世界一の教育」オランダ公立小学校が実施するコロナ休校中の「授業」(倉田 直子)
国際連合の一機関であるユニセフが「世界一の教育」であると認定するということは、日本からだけではなく世界的にもオランダの教育が認められているというわけです。
【参考】子どもの幸福度ランキングの基準とオランダの順位
- 精神的幸福度:生活満足度の高い子どもの割合・自殺率
- 身体的健康:子どもの死亡率・肥満の子どもの割合
- スキル:読解力・数学分野の学力・社会的スキル
出典:ユニセフ報告書「レポートカード16」先進国の子どもの幸福度ランキング 2020年/unicef
オランダは3分野で平均的に順位が高く、精神的幸福度で1位を獲得しているのが特徴的です。対して日本は、身体的健康が38カ国中1位という好成績であることに対し、精神的幸福度が37位と、オランダとは対照的な結果となっています。
また、スキル面でも日本はPISA(国際学習到達度調査)においてトップ5位に入る実力がありながらも28位とふるわない結果です。PISAの結果だけを見れば、日本の教育もひとつの側面では優秀であるとの見方もできますが、やはりオランダと比較すると「子どもがどのように感じているか」での差があるように見えます。
参考元:ユニセフ報告書「レポートカード16」先進国の子どもの幸福度をランキング日本の子どもに関する結果/ unicef
オランダの教育制度
では、子どもの幸福度が高いオランダの教育が世界1と言われる理由は何なのでしょうか?オランダの教育には日本と比較してどのような特徴があるのか見ていきましょう。
- 8・4(~6)・4制の教育課程
参考元:オランダの教育の制度・特徴は?世界1と言われる理由と個性を尊重するイエナプラン/Education Career
以上の図から、オランダの学校制度は中学校から日本と大きく違うことがわかります。小学校最終学年での試験(CITO)は、シンガポールの小学校卒業時の全国統一テスト(通称:PSLE)と似ていますが、テストのスコア如何で進学先が決定してしまうシンガポールとは違い、オランダはあくまで個人の意思が尊重されるのも特徴的です。
また、オランダの初等教育の特徴として「小学校でも留年がある」ことも挙げられます。
オランダでは職業訓練にも力を入れており、中学校から既に職業訓練をカリキュラムに入れているほか、高等教育でも実務専門大学校を設けており、子どもの特性を活かした教育がなされていると言えます。
世界的にも教育水準が高い国として名高いフィンランド、中国、シンガポールでも、オランダと同じように大学進学中心の学校と職業訓練や専門科目に特化した学校に分けており、適材適所を意識した教育制度になっています。
義務教育課程は公立・私立ともに無償
日本も義務教育は無償ですが、それは公立・中学校までの話です。オランダは中等教育(16~18歳)までは公立・私立ともに学費が無料です。
EUの中には自国民・留学生に対しても大学の学費が無料の国も多いですが、オランダの大学に関しては無償ではありません。しかし、オランダの総合大学は大学進学中等教育を修了した限られた人のみが入学を許可されるため、進学率は10%程度です。
高等職業教育機関に関しても、進学率は30%程度のため、全ての学生が高等教育に進学するわけではありません。中等教育まででも十分な教育を受けられるため、無償で通えるのは保護者にとっても助かるでしょう。
インターナショナルスクールは学費は生徒負担
中等教育までは公立・私立問わず無償とは言え、インターナショナルスクールは生徒側で負担する必要があります。オランダのインターナショナルスクールは公立・私立と分かれており、公立であれば補助が出るところもあるので、多少割安で入れる場合もあります。
しかし、やはり日本のインターナショナルスクールのイメージに違わず高額です。
親の学歴次第では交付金がある
日本の価値観では驚きですが、オランダには「親の学歴が低いほどに補助金が出る」という制度があります。日本でもよく「学歴の再生産」という話を耳にしますが、オランダでは「学歴の再生産」の負の側面を止めるべく、親の最終学歴が低い子どもが在籍する学校に交付金が配られる仕組みになっているのです。
つまり、親の学歴が低い→子どもの勉強のサポートが薄い→学校の負担が増える、という理屈です。
参考元:「世界一の教育」オランダ公立小学校が実施するコロナ休校中の「授業」(倉田 直子)
オランダの教育方針はイエナプランとの相性抜群
イエナプランとは?
一人ひとりを尊重しながら自律と共生を学ぶオープンモデルの教育
引用元:日本イエナプラン教育協会
ドイツの教育学者ペーター・ペーターセンが提唱した教育実践プランのこと。子どもの主体性や協調性を重視した「20の原則」に従う指導方法で、主にオランダでは広く取り入れられている。
オランダの憲法によって定められている「個性を尊重する」という教育方針と、イエナプランの相性がよく、オランダでは1970年代に急速にイエナプランスクールが増え、今なお実践されています。
日本でも、2019年にイエナプランを導入した私立学校が現れ、2022年にはイエナプランを取り入れる予定の公立学校も出てきました。
日本の教育制度とイエナプランの親和性に関しては議論がなされていますが、オランダの教育観にはイエナプランがぴったりだと言えるでしょう。
参考元:各国憲法集(7) オランダ憲法/国立国会図書館
【完全版】イエナプラン教育とは?特徴から問題点までを徹底解説/スタスタ
公立初「イエナプラン教育校」に移住者も集う訳/東洋経済
下がり続ける学力レベル
「教育の質が高い」と聞くと「学力が高い」というイメージを思い浮かべる方も多いでしょう。しかし、経済協力開発機構(OECD)参加国を含む諸外国で3年ごとに15歳を対象に行われる学習到達度調査(PISA)において、オランダの成績は少しずつ下降傾向にあります。
出典:OECD生徒の学習到達度調査(PISA)/国立教育政策研究所
グラフで見ると変化が小さく見えますが、2000年から始まったPISAにおいて、2003年はオランダは3分野、2006年は2分野、2009年と2012年は1分野でトップ10入りを果たしていますが、2015年には17位・15位・11位という結果に終わっています。
グラフの微妙な差で、OECDの平均点は超えてはいますがPISA上位の日本と比較すると年々その差が開いてきていることがわかります。
子どもの幸福度が高く、オランダの教育が高く評価されている裏で、オランダの学力低下は少しずつ進んでいるのです。
学校の先生は人気の仕事ではない
オランダの学力低下を招いた一因として「教師不足」があるとオランダの一般教育連盟は考えています。教育レベルが高いとされるシンガポールやフィンランドでは、教育における教師の質を重視しているため教員の地位が高いことで有名です。
- 学校の先生の地位は生徒の集中力や授業の質にも影響があるのでは
シンガポール・オランダと比べオランダでは、教師の給与が低くキャリアアップの機械も少ないためやりがいに欠け、教師は人気の職業とは言えません。
学校は教師と生徒が一体となって作り上げるものですが、オランダは教員不足が続いており、教員ひとりに対する負担が多いため、学力低下を招く一因として考えられているのです。
参考元:教師の地位が一番高い国はどこか<下> シンガポールとフィンランド、成功の秘訣/CNN
オランダの子育ては良いところばかりではない? 学校の「校歌」から考えるオランダと日本の違い/ワンモア・ベイビー・ラボ
他にも海外の教育事例をお届け
指導者へのお役立ち情報を発信するマナリンクTeachersでは、オランダの他にも各国さまざまな教育事例を紹介しています。
- フィンランド
フィンランド教育の特徴とは?世界一といわれる理由からデメリットまで解説/マナリンクTeachers
- 中国
【学力トップの中国教育】政策から読み解く中国がPISA1位になった理由/マナリンクTeachers
- シンガポール
【学力1位2位を争う】IT先進国シンガポールの教育から日本が取り入れるべきこと/マナリンクTeachers
オンライン家庭教師マナリンクでは、先生ご自身のスタイルで自由に授業できるため、良いと思った教育事例をどんどん授業に活用できます。今後もTeachersで様々な教育法を紹介していくので、ぜひ教育者としてのスキルアップに役立ててくださいね。
まとめ
子どもの幸福度が世界1位であるオランダは、教育も世界1だと言われています。オランダの義務教育無償制度や教育課程は子どもの個性を尊重しているこそ、子どもの幸福に繋がっているのです。
また、オランダは世界でもいち早くイエナプランを取り入れた国でもあり、教育に対する関心の高さがうかがえます。一方で、PISAは学力低下傾向にあり、教師の質が生徒の学力低下に影響を与える可能性を示唆しています。
オランダをはじめとした世界の特徴的な教育システムや事例から、ご自身の授業でも実践できそうなものを取り入れることで、さらなる指導の幅が広がります。
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こちらの情報は執筆段階でのリサーチ・状況において執筆されたものであり、随時内容のメンテナンスを行っておりますが、 現時点での正確性を保証するものではございませんのでご了承いただけますと幸いです。